2025年2月6日 晴れ

木陰に落ちた一匹の蝉に驚いた君が、よろめくようにして僕の肩に飛び込んできたあの夏の日。頬を赤らめた君の顔は、千の桜が一斉に咲いたように美しくて、今でも目を閉じれば鮮やかに浮かんでくる。懐かしいね、あの高校で過ごした二年間。何気ない毎日が、かけがえのない青春だった。今も君の青春が、あの頃のままでいてくれたらと願ってしまう。

桜が咲く季節になると、今でも思い出す。けれど、あの頃の僕は君に想いを伝える勇気がなかった。春の風に紛れて、またいつか会おうと約束したけれど、時代は流れ、僕らはそれぞれの道を選んだ。ただ、離れては惹かれて、何かを待ち続けていた。舞い落ちる花びらを見るたびに、ようやく気づくんだ。あれは、確かに恋だったんだと。

恋人ではなかった。でも、確かにそこにはあたたかな想いがあった。放課後の細い坂道を、自転車で並んで走った帰り道。ふと聴こえた君の歌声を、僕は黙って聴いていた。今ではもう、あの声を耳にすることもできない。ただの友情だと、自分に言い聞かせていたけれど、それはきっと間違いだった。でも、もう戻れない。

春になると、あの日の未来を夢見ていた僕を思い出す。けれど、気づけば僕らは別々の道を歩んでいた。すれ違いながらも、たまに心が通じ合ったように思えた日もあった。でも結局、僕は君と恋人にはなれなかった。それは悲しいことなんだろうか。ただ、そういうものだったんだと思うしかない。

時は流れ、街も姿を変えた。思い出の公園も、今では苔むした石畳に覆われている。大人になるって、こんなに早いものだったんだね。

もしも、桜がもう一度咲くのなら。今度こそ、あの頃伝えられなかった想いを君に届けたい。でも、その場所も時間も、すでに遠くへ行ってしまった。

もし、どこかで偶然君に出会えたなら。路面電車に揺られて、海を越えて、ほんの一瞬だけでも視線が交わったなら、それだけで十分かもしれない。昨日咲いていた花は、もう今日の花ではないのだから。