2025年6月7日 くもり

この道を歩き、立ち止まり、少年時代の漂う足跡を辿ってきた。見慣れた街角を踏み出そうとしたその瞬間、胸の奥にふいに「近くて遠い」ような不安が込み上げてきた。ずっと待ち望んでいたはずの再会なのに、その笑顔が遠い幻だったらどうしようと、そんな臆病な気持ちがあった。風がそっと耳元をかすめ、あの日の記憶を優しく呼び覚ます。すぐそこにあるはずなのに、掴んだはずなのに、指の間から零れ落ちていくような、そんな感覚だけが残る。

初めて彼女に出会った日のこと、その笑顔は花のように咲き、僕の胸の一番柔らかい場所をそっと照らした。あの頃の僕は、すべてを捧げれば、きっと守れるものがあると信じていた。どんなに広い世界でも、どんなに強い風雨でも、あの子のために走り続けると決めていた。

季節は巡り、いくつもの景色を越え、いくつもの横顔を見てきたけれど、彼女からの便りは少しずつ遠のいていった。彼女には彼女の時間があり、彼女の場所があると分かっていても、それでも気づけば、胸の奥であの笑顔を探してしまう自分がいる。夜の深い夢の中で、もう一度あの笑顔に出会える気がして。あの日と同じように、「ここにいるよ」と、そっと囁いてくれるような気がしてしまう。

この世界の喧騒に溺れ、その中でいくつもの夢を見た。真実も偽りも、もう関係ない。誰かに笑われてもいい。青春はあの子の姿となり、指先をすり抜けた日差しのようでもあった。胸の奥のときめきは、ただ風に運ばれていく。

暮れゆく街の中で、あの笑顔がまた心を揺らす。まるで絵の中の人みたいに、うつむき加減に、小さな声で何かを囁く。僕は今でも世界の広さに感嘆し、子どもの頃の甘い言葉に、今でも胸を焦がす。現実ではもう、彼女はいないのかもしれない。でも、それでも夢の中で、あの子はそっと笑って、「ずっと待ってたよ」って、僕に囁いてくれる気がする。

青春も、あの夏の眩しさも、すべてあの子に返すよ。心のままに、風のままに。風が起き、そして静かに滅びていくように。縁が生まれ、そして落ち尽くすように。そんなこの胸の痛みさえも、いつか風に運ばれていくのだろうか。